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口呼吸による虫歯や歯周病リスク増加のメカニズムを紹介

口呼吸とは?その特徴と原因

「口で息をすることは、そんなに悪いことなの?」と思われるかもしれません。しかし、実は口呼吸は子どものお口の健康にとって見逃せない問題のひとつです。今回はまず、口呼吸とはどのような状態なのか、そしてなぜそうなってしまうのかについてお話ししていきます。

口呼吸とは、文字通り「鼻ではなく口で呼吸する」ことです。人は本来、鼻から息を吸ったり吐いたりする「鼻呼吸」が基本です。鼻は空気を加湿・加温し、異物を取り除くフィルターの役割も果たしているため、鼻呼吸は体にとって非常に重要な機能です。一方で、口呼吸にはこのような空気の調整機能がありません。その結果、空気が乾燥したまま体内に入るだけでなく、お口の中の環境にも悪影響を及ぼしてしまいます。

口呼吸が起こる原因はさまざまですが、主に次のような要因が挙げられます。

・アレルギー性鼻炎や慢性鼻づまり

・扁桃腺やアデノイドの肥大による鼻閉塞

・口の周りの筋力の弱さ(口唇閉鎖不全)

・習慣的な指しゃぶりや口を開けた姿勢

・顎の発達異常や歯並びの問題(上顎前突など)

とくに子どもは成長過程にあるため、骨格や筋肉のバランスがまだ安定していません。鼻が詰まりやすかったり、姿勢のクセがあったりすると、知らないうちに口で息をする習慣がついてしまうことがあります。

口呼吸が習慣化すると、口の中が常に乾燥した状態になり、唾液の働きが弱まります。この唾液はお口の健康を守る「天然のガードマン」のような役割を果たしており、その働きが低下することで虫歯や歯周病のリスクが高まってしまうのです。

このように、口呼吸は単なる「クセ」ではなく、お子さまの歯と体の健康に大きな影響を与える可能性があります。次のセクションでは、口呼吸がなぜ歯や歯ぐきに悪影響を与えるのかをさらに詳しく見ていきましょう。

なぜ口呼吸が歯や歯ぐきに悪影響を及ぼすのか

結論から言うと、口呼吸はお口の中の「乾燥」を引き起こし、唾液の働きを妨げることで虫歯や歯周病のリスクを高めます。その理由は、唾液が持つ重要な役割が損なわれるためです。

唾液には、口の中を清潔に保ち、歯の表面を保護し、細菌の増殖を抑えるといったさまざまな働きがあります。特に、食後に酸性に傾いた口腔内を中和し、再び健康的な状態に戻す「緩衝能(かんしょうのう)」という作用は、虫歯予防に欠かせません。しかし、口呼吸によって口腔内が乾燥すると、この唾液の量が減少し、十分な働きができなくなります。

さらに、乾燥した環境では歯垢(プラーク)がたまりやすくなり、細菌が増殖しやすい状況になります。とくに歯ぐきの境目や歯と歯の間には、虫歯や歯周病を引き起こす細菌が繁殖しやすく、炎症が起こりやすくなります。これは、免疫力が未発達な子どもにとって、より大きなリスクとなります。

また、口呼吸の習慣が続くと、口の周りの筋肉の発達にも影響を及ぼします。口を閉じるための筋肉が弱くなると、無意識のうちに口を開けた状態が常態化し、さらに口呼吸が進行するという悪循環に陥ってしまいます。こうした筋機能の低下は、歯列や顎の成長にも影響を与えるため、将来的なかみ合わせの問題にもつながる可能性があります。

加えて、口で呼吸することで空気中の異物や細菌が直接喉や気管に入りやすくなり、風邪やアレルギー症状が長引くこともあります。これは全身の健康にも波及するため、歯や歯ぐきだけの問題にとどまらないことがわかります。

つまり、口呼吸はお口の乾燥を招き、唾液の自浄作用や抗菌作用を低下させることで、虫歯や歯周病の原因となりうるだけでなく、口周りの筋肉や全身の健康にまで影響する広範な問題なのです。

次のセクションでは、この唾液の具体的な働きや、口呼吸がどのようにして唾液の作用を妨げるのか、さらに詳しく見ていきましょう。

口腔内の乾燥と唾液の役割

口呼吸が歯や歯ぐきに悪影響を与える最大の理由の一つが「口腔内の乾燥」です。乾燥状態が続くと、虫歯や歯周病のリスクが高まるだけでなく、口臭や粘膜の炎症など、さまざまな問題の引き金になります。そして、そのリスクを本来は抑えてくれるのが、唾液の存在です。

唾液には、口腔内を健やかに保つための機能が数多く備わっています。まず、代表的な働きとしては以下のようなものがあります:

  • 自浄作用:食べかすや細菌、古くなった粘膜などを洗い流す
  • 抗菌作用:細菌の繁殖を抑え、感染を防ぐ
  • 再石灰化作用:歯のエナメル質を修復し、初期虫歯の進行を抑える
  • 緩衝作用:飲食により酸性に傾いた口内を中和する
  • 粘膜の保護:粘液の膜で口腔内を潤し、外部刺激から保護する

このように、唾液はまさに“天然のマウスケア剤”といえる存在なのですが、口呼吸によって口が常に開いている状態だと、その唾液が蒸発しやすくなります。その結果、唾液が十分に行き渡らず、これらの重要な機能が低下してしまうのです。

特に子どもは、唾液の分泌量自体が大人より少ない傾向があるため、乾燥による影響を受けやすいと言われています。さらに、就寝中に口呼吸をしていると、唾液の分泌が自然に減る夜間にさらに乾燥が進み、寝起きに口がネバネバする、口臭が強くなるといった症状が現れやすくなります。

加えて、唾液には「再石灰化」と呼ばれる大切な作用もあります。食事をすると口の中が一時的に酸性に傾き、歯の表面からカルシウムやリンが溶け出しますが、唾液のミネラル成分がそれを元に戻してくれるのです。この働きが失われると、歯の表面は弱くなり、虫歯のリスクがさらに高まります。

つまり、口呼吸がもたらす口腔内の乾燥は、唾液の働きを妨げ、口腔環境を悪化させてしまう大きな要因なのです。これにより、虫歯や歯周病への抵抗力が低下し、問題が起きやすくなるというわけです。

次は、この乾燥した環境下でなぜ虫歯ができやすくなるのかを、さらに詳しく見ていきましょう。

虫歯ができやすくなる理由

口呼吸を続けていると、なぜ虫歯になりやすくなるのでしょうか?結論から言えば、口腔内の乾燥により唾液の働きが低下し、虫歯の原因となる酸が長時間口の中にとどまりやすくなるためです。

虫歯は「ミュータンス菌」と呼ばれる細菌が糖分をエサにして酸を出し、その酸が歯の表面(エナメル質)を溶かすことで発生します。本来、食後に一時的に酸性に傾いた口の中は、唾液の「緩衝作用」によって中和され、再び中性に戻ります。また、唾液中のカルシウムやリン酸が溶け出したエナメル質を修復する「再石灰化」も起こります。

しかし、口呼吸によって唾液の分泌量が減少すると、この中和と修復の働きが弱まり、酸性状態が長く続いてしまいます。その結果、歯の表面が酸にさらされる時間が長くなり、虫歯が発生しやすくなるのです。

特に、乾燥しやすい上の前歯や歯と歯の間、また、歯の溝にプラーク(歯垢)がたまりやすい奥歯などは虫歯のリスクが高まります。唾液による洗浄や保護が十分に行き届かないこれらの部位は、口呼吸によってさらに影響を受けやすくなります。

また、口呼吸をしている子どもは、鼻が詰まっていたり口を開けていることが多く、集中力が低下しがちです。これは、十分に口腔ケアが行き届かず、磨き残しが増える一因にもなります。歯みがきの時間や質が不十分だと、プラークが長くとどまり、細菌の活動を促してしまいます。

さらに、糖分を含んだ飲み物やお菓子を頻繁に摂取する習慣がある場合は、口腔内の酸性状態が繰り返され、唾液の修復機能が追いつかなくなることも。こうした生活習慣と口呼吸が重なると、虫歯のリスクは一気に高まります。

つまり、口呼吸による唾液の減少は、虫歯の「防御システム」を低下させる大きな要因です。とくに成長期の子どもにとっては、まだ十分に発達していない歯が標的となりやすいため、予防が非常に重要になります。

次は、口呼吸がどのように歯ぐきに影響を与え、歯周病のリスクを高めるのかを見ていきましょう。

歯周病のリスクが高まる仕組み

口呼吸が続くと、虫歯だけでなく「歯周病」のリスクも高まります。結論から言うと、口腔内の乾燥が歯ぐきの防御力を弱め、炎症が起きやすい環境をつくってしまうからです。

歯周病は、歯と歯ぐきの間にたまった歯垢(プラーク)内の細菌が原因で、歯ぐきに炎症が起きる病気です。初期段階では「歯肉炎」と呼ばれ、赤く腫れたり出血しやすくなったりします。進行すると「歯周炎」となり、歯ぐきだけでなく歯を支える骨まで破壊されていきます。

唾液にはこのような炎症を抑える「抗菌作用」や、細菌を洗い流す「自浄作用」があります。しかし、口呼吸によって唾液が蒸発しやすくなると、こうした保護機能が働きにくくなり、細菌が繁殖しやすくなってしまうのです。

特に、口呼吸により口の中が乾燥すると、歯ぐきが乾いたままになりやすく、やがて血行不良や抵抗力の低下が起こります。すると、ほんのわずかな刺激でも炎症が起きやすくなり、歯周病への進行が加速します。

さらに、子どもの場合は、歯周病の初期段階である「小児歯肉炎」が見逃されやすく、歯ぐきが赤く腫れていても痛みが少ないため、気づかないうちに進行してしまうことがあります。口呼吸の影響で乾燥が慢性的になっていると、この炎症が日常化しやすく、気づいたときには歯ぐきの状態が悪化していることも少なくありません。

また、口呼吸は舌の位置や口唇の動きにも影響を与えるため、歯ぐきへの刺激が不均一になり、局所的に歯周組織が弱くなることがあります。これは歯並びや噛み合わせにも悪影響を与え、結果的に歯周病が進行しやすい環境を助長する要因にもなります。

つまり、口呼吸がもたらす歯周病のリスクは、単なる乾燥だけではなく、唾液の機能低下、血行の悪化、筋機能の変化など、複合的な要素によって引き起こされるのです。とくに子どものうちから口呼吸の習慣がある場合、将来的な歯周病のリスクも高くなるため、早めの対応が重要です。

次は、お子さまに見られる「口呼吸のサイン」と、それをどう見つけるかについて見ていきましょう。

子どもに多い口呼吸のサインと見つけ方

口呼吸は一見すると見逃しやすい習慣ですが、実は日常の中で注意深く観察することで、いくつかの「サイン」から気づくことができます。結論から言えば、口呼吸のサインは顔の表情や姿勢、睡眠中の様子などに表れることが多く、早めに気づくことで歯や体の健康を守る第一歩になります。

まず最もわかりやすいサインが、「いつも口が開いている」という状態です。テレビを見ているときや遊んでいるとき、集中しているときなどに、お子さんの口元がポカンと開いている様子が見られる場合は、無意識に口呼吸をしている可能性があります。これは口の周りの筋力が弱く、唇を閉じる力が不足している証拠でもあります。

次に、睡眠中の状態も重要な観察ポイントです。以下のような様子があれば、口呼吸をしているサインと考えられます:

  • 寝ている間に口が開いている
  • いびきをかく、または呼吸音が大きい
  • 朝起きたときに口の中が乾いている、喉が痛いと言う
  • 寝起きが悪く、日中も眠そうにしている

これらの症状は、夜間に口で呼吸していることで口腔内が乾燥し、十分な酸素を取り込めていない可能性を示しています。特に成長期のお子さんにとって、睡眠の質が低下することは、免疫力の低下や集中力の低下、さらには学習面や発育にも影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。

さらに、以下のような身体的な特徴や癖も、口呼吸と関連しているケースがあります:

  • 鼻がいつも詰まっている(アレルギー性鼻炎など)
  • 扁桃腺が大きく、喉が狭く見える
  • 猫背気味で頭が前に出ている姿勢が多い
  • 指しゃぶりや舌を出す癖が残っている
  • 歯並びが乱れている(上の前歯が出ている、開咬など)

これらの特徴は、鼻呼吸がしにくい状態や、口呼吸が癖づいてしまっている可能性を示します。

親御さんにできることとしては、まず日常生活の中で意識的にお子さんの口元を観察することが大切です。また、「口を閉じようね」と声かけをすることも、口の周りの筋肉を使う意識づけになります。

必要に応じて、小児歯科や耳鼻科、小児科などの専門医に相談することで、より正確な診断やアドバイスを受けることができます。

次のセクションでは、こうした口呼吸を改善するために家庭でできる対策について、具体的にご紹介していきます。

口呼吸を改善するための家庭でできる対策

口呼吸を放っておくと、虫歯や歯周病だけでなく、お子さまの全身の健康や成長発達にも影響を及ぼす可能性があります。そこで、結論としては「日常生活の中でできる簡単な対策を少しずつ取り入れること」が、口呼吸改善の第一歩となります。ここでは家庭で実践できる対策について具体的にご紹介していきます。

1. 口を閉じる習慣づけ

まず最も基本となるのは「口を閉じる」意識を持たせることです。子どもは無意識に口を開けていることが多いため、保護者の方がやさしく「お口を閉じようね」と声をかけることが大切です。絵本の読み聞かせ中やテレビを見ている時など、リラックスしているタイミングがチャンスです。

また、口の周りの筋力を鍛える「あいうべ体操」もおすすめです。これは「あー」「いー」「うー」「べー」と大きく口を動かす体操で、唇や舌の筋肉をバランスよく使うことで、口唇閉鎖力が高まります。1日3回、毎回10セットを目安に、親子で楽しく行うと続けやすくなります。

2. 鼻呼吸を促す工夫

鼻づまりが原因で口呼吸になっている場合には、アレルギー性鼻炎などの治療を耳鼻科で受けることも必要ですが、家庭でできることもあります。例えば、寝室の湿度を保ち、空気清浄機や加湿器を使用して鼻粘膜を乾燥から守ることが、鼻呼吸の助けになります。

また、寝るときに横向きやうつ伏せで寝る癖がある場合は、上向きで寝るよう促すことも効果的です。枕の高さを調整し、首の角度を自然に保つことで、気道の確保がしやすくなり、鼻呼吸がしやすくなります。

3. 姿勢の改善

姿勢が悪くなると、顎が下がり、口が開きやすくなります。特に猫背は口呼吸の原因にもなるため、座るときの姿勢や勉強時の姿勢に気を配ることが大切です。背筋を伸ばし、頭の位置が肩の真上にくるよう意識づけましょう。必要に応じて、椅子や机の高さの調整も行うとよいでしょう。

4. 習慣の見直し

おしゃぶりや指しゃぶり、口を触る癖などがあると、口が開いた状態を長時間保ってしまい、口呼吸が習慣化しやすくなります。これらの習慣を見直し、少しずつやめていくことも重要なステップです。

また、食事の際に「よく噛む」ことを習慣づけることで、顎の筋肉がしっかり発達し、口を閉じる力も自然と高まります。硬さや食感の異なる食材を取り入れると、噛む力を養うのに効果的です。

このように、日々の生活の中でできる小さな工夫を積み重ねていくことで、口呼吸は徐々に改善されていきます。親子で取り組める内容も多いため、楽しみながら継続することがポイントです。

次の章では、ここまでのまとめとして、口呼吸と虫歯・歯周病リスクの関係、そしてお子さまの健康を守るために大切な視点をお伝えします。

終わりに

口呼吸は「ただのクセ」と思われがちですが、実はお口の健康だけでなく、全身の健康や子どもの成長にも大きな影響を及ぼす可能性があります。本記事でご紹介してきたように、口呼吸は唾液の働きを妨げ、口腔内の乾燥を引き起こすことで、虫歯や歯周病のリスクを高めてしまいます。

特に子どもは、まだ成長段階にあるため、顎の発達や歯並び、噛み合わせ、さらには呼吸の習慣までもが将来の健康に関わってきます。口呼吸のサインを早期に見つけ、正しい呼吸と口腔機能を育むことは、将来の健康への大切な投資と言えるでしょう。

また、家庭でできる口呼吸対策は、特別な道具や治療が必要なわけではなく、「口を閉じる習慣」や「姿勢の見直し」「よく噛む習慣」など、日常の小さな工夫から始められることがたくさんあります。お子さま自身が楽しく取り組めるよう、親子で声をかけ合いながら継続することが成功のカギです。

もちろん、すでに口呼吸が習慣化していたり、鼻の通りが悪い、歯並びが心配といった場合には、早めに小児歯科や耳鼻科などの専門機関へ相談することをおすすめします。医師の適切なアドバイスを受けることで、より安心してお子さまの健康を守ることができます。

私たちのクリニックでは、お子さま一人ひとりの状態に応じたアドバイスやケアを大切にしながら、安心して通える環境づくりを心がけています。口呼吸に関する不安や疑問がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

小さな気づきが、大きな健康につながります。これからも、お子さまの健やかな成長をサポートするために、正しい知識と習慣づくりを一緒に進めていきましょう。

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