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歯医者恐怖を克服するための訓練の進め方

・歯医者に行くだけで泣いてしまう
・診察台に座るだけで怖がってしまう
・治療中じっとできない
・付き添う親も不安になる
・子どもに楽しく通ってほしい

歯医者さんが苦手なお子さまは少なくありません。「怖い」「痛い」「知らない人が触る」といったイメージが先行してしまうからです。
そんなときに大切なのは、ただ無理に治療を受けさせるのではなく、「恐怖」をやわらげながら慣れていく工夫です。小児歯科では、お子さまのペースに合わせて、少しずつ不安を減らすための訓練を行っています。
この記事では、歯医者さんへの恐怖を少しずつ克服していくためのステップと、ご家庭でもできるトレーニング方法をわかりやすくご紹介します。
親子で一緒に取り組めば、きっと笑顔で通えるようになるはずです。

歯医者恐怖はなぜ起こる?原因を知ることが第一歩

子どもが歯医者さんを怖がるのには、きちんと理由があります。まずはその「なぜ怖がるのか」を大人が理解することが、恐怖克服の第一歩です。

一般的に、歯医者恐怖(歯科恐怖症)は以下のような要因から生まれます。

● 痛みに対する不安

歯科治療では「チクッとする」「ガリガリ音がする」といった感覚があり、これを「痛そう」「怖そう」とイメージしてしまうお子さまが多くいます。とくに初めての治療で強い痛みを経験してしまうと、その記憶が強く残り、次回以降も強い恐怖心を抱いてしまいます。

● 過去の経験によるトラウマ

以前の治療で泣いてしまったり、抑えられて治療を受けた経験があると、また同じことが起きるのではないかという不安を感じやすくなります。子どもにとっては「痛みそのもの」よりも、「自分の気持ちを受け止めてもらえなかった」と感じることが、深い恐怖につながることもあります。

● 親の不安や表情の影響

お子さまは親御さんの表情や雰囲気にとても敏感です。「また泣くかな?」「嫌がったらどうしよう」といった不安が表情や口調に表れていると、それが子どもに伝わり、「やっぱり怖い場所なんだ」と思ってしまうのです。

● 歯科医院の独特な雰囲気

消毒薬のにおい、器具の音、白衣のスタッフ…。大人には日常でも、子どもにとっては非日常の空間です。安心感がない状態で、急に診療台に乗せられることも恐怖の原因になります。

● コントロールできない状況への不安

小さな子どもにとって、自分で選べないことや、自分のペースで進められない状況は非常にストレスです。何をされるか分からない、口の中を勝手に触られるという感覚は、不安や恐怖を強める要因になります。

このように、歯医者さんに対する恐怖はさまざまな要素が絡み合って生まれるものです。まずは「怖がるのが普通」という前提で、お子さまの気持ちを理解し寄り添うことが、安心への第一歩となります。次の章では、具体的にどのように共感し、気持ちを受け止めていくのかをご紹介します。

恐怖心を理解し共感する:お子さまの気持ちを受け止める

「うちの子、また泣いちゃうかも…」「何を言っても嫌がって…」――そんなとき、つい困ってしまう親御さんも多いかもしれません。でも、恐怖や不安を抱える子どもにとって、一番心強いのは“気持ちをわかってくれる人”の存在です。

お子さまの気持ちに共感し、受け止めることは、恐怖を乗り越えるための大きな支えになります。

● 怖がるのは「わがまま」ではない

歯医者を怖がるお子さまの多くは、恐怖をコントロールできず、自分でもどうしたらいいか分からない状態です。

「ちゃんとして」「泣かないで」と言われると、自分の感情を否定されたように感じ、さらに不安になってしまいます。

まずは「怖いよね」「不安だよね」と言葉にして、気持ちに寄り添ってあげましょう。

● 子どもの表現を受け入れる

泣いたり、隠れたり、じっと固まったり…。それは子どもが自分の恐怖を精一杯表現しているサインです。

無理にやめさせようとせず、「今は怖いんだな」と理解する姿勢が、安心感へとつながります。

● 具体的な言葉で気持ちを伝える

「大丈夫」「心配ないよ」だけでは、子どもは納得できないことがあります。

「先生は○○ちゃんが怖くないように、ゆっくりお話してくれるよ」

「今日はお口をあーんするだけでいいよ」など、具体的に説明することで、状況が見えやすくなり、不安がやわらぎます。

● 親の安心が伝わる声かけを

親御さんの表情や声には、お子さまはとても敏感です。不安があるときこそ、優しく落ち着いた声で話しかけることで、「大丈夫」という気持ちが伝わります。

お子さまにとっての「安全基地」になってあげることが大切です。

● 頑張った気持ちをしっかり認める

実際の治療の前でも、「待合室で静かに待てた」「お名前を呼ばれてお返事できた」など、小さな行動をしっかり褒めてあげると、子どもは自信を持つようになります。

「できたね」「よく頑張ったね」と言われる経験が、次のステップへの原動力になります。

子どもは「怖い」という感情をうまく言葉にできないことがあります。

その気持ちを丁寧に汲み取り、共感してあげることで、「ここなら大丈夫」「お父さんお母さんがそばにいてくれるから頑張れる」という信頼感が芽生えていきます。次の章では、そんな安心感をさらに高める歯科医院の取り組みについてご紹介します。

歯科医院の環境づくりと「安心できる場所」の体験

子どもが安心して歯科に通えるようになるためには、「歯医者さん=怖い場所」ではなく、「ここは安心できる場所」と感じてもらうことがとても大切です。そのために、小児歯科では医院全体の雰囲気づくりに工夫を重ねています。

環境づくりのポイントは、視覚・聴覚・触覚など五感に働きかける「安心感の演出」と、子どもの感情を尊重した対応です。

● 親しみやすい内装とキッズスペース

壁紙や照明の色合い、ぬいぐるみやおもちゃ、絵本など、お子さまにとって楽しい空間を演出することで、緊張感をやわらげます。待合室や診察室が明るく、居心地のよい雰囲気であることが、第一印象を大きく左右します。

また、歯科医院独特のにおいや音に配慮し、BGMやアロマを活用することも、不安を感じにくくする工夫のひとつです。

● スタッフ全員が子ども目線で接する

小児歯科では、歯科医師だけでなく、受付や歯科衛生士、助手までが子どもに慣れており、声かけや対応も柔らかく丁寧です。

「こんにちは!○○ちゃん、お待ちしてたよ」と明るく声をかけてもらえるだけでも、お子さまは安心感を覚えやすくなります。

スタッフがマスクの下で笑顔を絶やさず、目線を合わせて話しかけること、説明をゆっくり丁寧にすることなど、小さな心配りが「ここなら大丈夫」という気持ちにつながります。

● 診療室での予行練習=「安心できる経験」

実際の診療に入る前に、診療室での体験を取り入れることも恐怖克服に役立ちます。

たとえば、「診察台に座ってみる」「お口をあーんする練習をする」「器具を見せてもらう」「空気だけ出る機械に触れてみる」といった予行練習は、子どもにとってとても貴重なステップです。

これにより、診療が未知の体験から「知っていること」に変わり、不安が大きく軽減されます。

● 保護者と一緒に過ごせる時間を大切に

初めての来院時や不安が強い時期は、診療中も保護者の方が付き添えるよう配慮しています。

子どもにとっては、そばにいるだけで安心できる存在がいることが、治療に向き合う大きな力になります。

歯医者さんを「怖くない場所」に変えるためには、医院全体が一体となって安心できる環境を整えることが必要です。

無理やり治療を進めるのではなく、まずは“ここに来るのが楽しい”という気持ちを育てていくことで、次第に恐怖心は薄れていきます。次の章では、その安心感を支える「小さな成功体験」についてご紹介します。

小さな成功体験の積み重ねが自信につながる

歯医者さんに対する恐怖を克服するためには、「できた!」という成功体験の積み重ねがとても大切です。大人にとっては些細に思えることでも、子どもにとっては大きな達成感と自信につながるのです。

小児歯科では、お子さま一人ひとりに合わせた「無理のないステップアップ」を意識しながら、安心して成功体験を積めるようサポートしています。

● 小さな「できた」を見逃さない

例えば、「診療室まで自分で歩けた」「診察台に座ることができた」「お口を開けられた」など、一つひとつの行動は大きな前進です。

歯科医師やスタッフがすぐに「すごいね!」「上手にできたね!」と声をかけることで、子どもは自分の行動が認められたと感じ、次への意欲が高まります。

このような小さな成功が積み重なると、「怖い場所」だった歯医者が「自分でも頑張れる場所」に変わっていきます。

● スモールステップの治療計画

無理なく前進するためには、段階的なアプローチが効果的です。

最初の来院ではお話だけ、次はお口を開ける練習、その次は器具を使った処置…というように、1回の来院ごとに目標を設定し、ひとつずつステップアップしていきます。

お子さまのペースに合わせることで、心の負担を減らしながら、着実に歯科治療への抵抗感を減らしていけます。

● 成功体験の「記憶」が恐怖をやわらげる

人は、つらかった経験よりも、うれしかった記憶のほうが心に残りやすい傾向があります。

「今日は泣かなかった」「先生とお話できた」など、成功体験が記憶に残ることで、次回の来院時に「また頑張れるかも」と前向きな気持ちになりやすくなります。

歯科医院での経験が少しずつ「いい思い出」として積み上がっていくことが、恐怖心を軽くしていく力になります。

● ご褒美や楽しみで達成感を強化

小児歯科では、「よく頑張ったね!」の気持ちを込めて、診療後にちょっとしたシールやおもちゃを渡すこともあります。

このような「がんばったら良いことがある」というポジティブな記憶が、次回の来院への動機付けにもつながります。

また、ご家庭でも「今日はとってもえらかったね」「すごく頑張ったね」と褒めてあげたり、帰りに好きな遊びをするなどして、お子さまの達成感をサポートすることができます。

お子さまの心の成長には、無理なく自信を積み重ねていく時間が必要です。大切なのは「今日できること」に焦点を当て、成功体験を一緒に喜ぶこと。次回は、ご家庭で気軽にできる訓練のひとつ「歯医者さんごっこ」についてご紹介します。

ご家庭でできる「歯医者さんごっこ」トレーニング

歯医者さんに慣れるための第一歩として、ご家庭でできる「歯医者さんごっこ」はとても効果的なトレーニング方法です。遊びの中に歯科体験の要素を取り入れることで、自然に「歯医者=怖い場所」というイメージをやわらげていくことができます。

ここでは、無理なく楽しく進めるためのポイントをご紹介します。

● なりきり遊びで恐怖心をゆるめる

子どもはごっこ遊びを通して、さまざまな場面を「体験」し、「理解」していきます。

歯医者さんごっこでは、ぬいぐるみやお人形を患者さん役にして、親御さんや兄弟姉妹が歯医者さん役を演じてみましょう。

「こんにちはー。今日はどこが気になるかな?」「お口をあーんしてくださーい」と優しく声かけをしながら、実際の診療の流れを模倣することで、自然に心の準備ができていきます。

● 遊びに道具を取り入れてみる

市販のおもちゃの歯医者セットや、使わなくなった歯ブラシ、小さな鏡などを使うと、よりリアルに楽しめます。

「これがライトだよ」「お口の中をピカピカにする機械だよ」など、器具に対する恐怖を減らす効果も期待できます。

器具の「正体」がわかれば、「知らないもの=怖いもの」ではなくなり、安心感が生まれます。

● 自分が「歯医者さん」役をするのも効果的

お子さま自身が歯医者さんになって、大人やぬいぐるみのお口をチェックする役をするのもとても良い練習になります。

役割を逆にすることで、「歯医者さんは怖いことをする人ではない」という認識に変わり、自分がコントロールできる立場にいることで安心感も得られます。

「お医者さんってやさしいね」「お口をみるって楽しいね」という気づきを得ることができます。

● 遊びの中で伝えたいこと

ごっこ遊びを通じて、「歯医者さんはお口の健康を守ってくれる大切な人」「診療は痛いことではなく、良くするためのこと」といったメッセージを自然に伝えることができます。

また、「終わったらおうちでごほうびあるよ」「がんばれたらシールをもらえるかも」など、ポジティブなイメージづけも大切です。

ご家庭での遊びは、お子さまにとってもっとも安心できる場所での経験です。緊張感が少ない中で繰り返し「歯医者体験」をすることで、実際の来院時にも戸惑いが少なくなります。次の章では、歯科医院でのスタッフとの連携による、無理のないステップアップについてご紹介します。

スタッフと連携した無理のないステップアップ

お子さまの歯医者恐怖を克服していく過程では、保護者と歯科医院のスタッフがしっかり連携することがとても重要です。歯科医師だけでなく、歯科衛生士、受付スタッフなど、すべてのスタッフが一丸となってお子さまをサポートすることで、安心感を高め、無理のないステップアップが可能になります。

● 治療のゴールより「慣れること」が第一目標

恐怖心の強いお子さまの場合、「1回で治療を終えること」ではなく、「歯科医院に慣れること」が最初のゴールになります。スタッフ全員がその前提を理解し、時間をかけてでも少しずつ慣れてもらうことに集中します。

そのため、「今日は診察台に座れた」「器具を見られた」といった小さな行動に対しても、スタッフからの称賛や励ましがあり、お子さまの自信につながります。

● チームでの情報共有で安心のサポート

小児歯科では、お子さまの状態や反応、過去の診療での様子などをスタッフ間で細かく共有しています。

「今日はどんな気持ちで来たかな?」「前回はここで不安そうだったね」など、お子さま一人ひとりに合わせたアプローチができるように、チームで支えています。

そのため、毎回違うスタッフが対応しても「ちゃんとわかってくれている」という安心感につながります。

● 親御さんとの会話も大切なカギ

ご家庭での様子や、不安に感じていること、どのような声かけが効果的かなど、親御さんからの情報はとても貴重です。

スタッフが事前に状況を知ることで、より適切な接し方ができ、トラブルを防ぐことにもつながります。

また、治療の進め方について不安や疑問がある場合も、気軽に相談できる体制が整っていると、親御さん自身の安心感にもなります。

● 「子どもを主体」にした診療の進め方

無理に治療を進めるのではなく、「○○ちゃんができるところまで」「今日はここまでにしようか」など、お子さまのペースに合わせることを大切にしています。

このような診療スタイルは、お子さまの「自分で選べた」という実感につながり、恐怖心の軽減と自信の獲得に大きく貢献します。

スタッフ全員が一体となって「お子さまを主役にした診療」を行うことで、歯医者への恐怖をやわらげ、自然と前向きな気持ちを育てることができます。

次の章では、こうした対応をさらに深めるために必要な「お子さま一人ひとりに合ったペースの見極め方」についてお話しします。

お子さま一人ひとりに合った恐怖克服のペース

歯医者さんが苦手なお子さまには、それぞれ異なる性格や経験、感じ方があります。ある子は1回で慣れることもあれば、別の子は何度も通ってようやく椅子に座れるようになることも。大切なのは、「みんな違って当たり前」という考えのもとで、お子さま一人ひとりに合ったペースを見つけてあげることです。

小児歯科では、この“個性に合わせた対応”がとても重要な考え方となっています。

● 比較ではなく、その子の成長に目を向ける

「同じ年の子は治療できたのに…」「兄弟は泣かなかったのに…」と他の子と比べてしまいがちですが、お子さま自身の歩みを大切に見守ることが、恐怖心の克服には欠かせません。

「前回より少し待てた」「少しだけでも口を開けられた」――その“わずかな前進”を見つけて褒めてあげることで、お子さまの自己肯定感が育っていきます。

● 「慣れ」にも時間が必要

恐怖心の強いお子さまにとって、環境や人に“慣れる”ことには時間がかかります。

一度泣いてしまったからといって、「もう無理だ」と思う必要はありません。逆に「泣いてもいいよ」「怖くても大丈夫だよ」と、感情をそのまま受け入れてもらえることが、次への安心につながるのです。

小児歯科では、最初の数回は治療をせず「慣れる練習」だけを行うこともあります。それほど、「準備」が大切なのです。

● 本人の意志を尊重する

恐怖を克服するためには、自分で「やってみようかな」と思えることが大きな一歩です。

「先生のお話だけ聞いてみる?」「椅子に座ってみる?」と、選択肢を与えることで、子ども自身が決める場面を作るようにしています。

強制ではなく、「自分で決めた」体験は、お子さまにとって大きな自信と安心につながります。

● 長期的な視点を持って見守る

歯医者に通うのは1回限りではありません。乳歯から永久歯への成長、虫歯予防、歯並びの管理など、今後も継続して通う必要があります。

だからこそ、「今すぐ治療を終わらせること」よりも、「通うことが怖くない」「先生や場所に慣れている」ことを優先する方が、長期的には大きなメリットになります。

一歩一歩、お子さまのペースで前進していけば、必ず「できるようになる日」がやってきます。

子どもの成長には、個人差があって当然です。「今はまだ難しくても、きっとできるようになる」と信じて待つことが、何よりも心の支えになります。次はいよいよ最後の章、「終わりに」をお届けします。

終わりに

歯医者さんに対する恐怖心は、お子さまの性格や過去の経験などによって、感じ方も反応もまったく異なります。しかし、恐怖は「理解し、寄り添い、少しずつ慣れていく」ことで、必ずやわらいでいくものです。

今回ご紹介したように、

・恐怖の原因を理解すること

・共感しながら気持ちに寄り添うこと

・安心できる歯科環境を整えること

・家庭での遊びやトレーニング

・歯科スタッフとの連携と段階的なサポート

・お子さまそれぞれのペースを尊重すること

これらの積み重ねが、「怖い」から「大丈夫」に変わる大きな力になります。

子どもたちはとても繊細で、同時に大きな可能性を秘めています。少しずつ、できることを増やしながら、自信と安心を育てていきましょう。

保護者の方も、焦らず、比べず、できたことに目を向けて、一緒に乗り越えていけるといいですね。私たち小児歯科医は、そんなお子さまたちの“がんばり”を、これからも全力で応援してまいります。

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