顎関節症とは?小児や思春期の患者にも見られる理由
こんにちは。今回は「子どもや高校生にも増えている顎関節症」についてお話しします。顎関節症というと、大人がかかるものというイメージを持たれる方が多いかもしれません。しかし近年、小学生や中高生の子どもたちにもこの症状が見られるケースが増えており、保護者の方々にとっても知っておきたいトピックになっています。
顎関節症とは、顎の関節やそれを動かす筋肉に異常が起きることで、口を開けにくくなったり、顎が痛んだり、カクカク音が鳴ったりする症状の総称です。医学的には「顎関節・咀嚼筋障害」と呼ばれ、年齢や性別を問わず発症する可能性がありますが、成長期の子どもにも発症することがあるという点に、より注意が必要です。
ではなぜ、子どもや高校生にも顎関節症が増えているのでしょうか?その背景には、現代の生活習慣やストレス環境、食生活の変化が関係しています。特に、スマートフォンやタブレットの長時間使用、硬いものをあまり噛まない食事内容、歯ぎしりや食いしばりなどの癖が、顎関節に負担をかける要因として注目されています。
さらに思春期は、心と体が大きく変化する時期でもあります。この時期の子どもたちは、受験勉強や部活動、人間関係によるストレスを感じやすく、それが無意識のうちに顎への負担となって現れることもあるのです。
小児歯科では、こうした成長期特有の要因を踏まえた対応が求められます。発見が早ければ、生活習慣の見直しや癖の改善、簡単なトレーニングなどで症状が和らぐケースも多く見られます。
このブログでは、顎関節症の具体的な症状や原因、治療の選択肢、家庭でできる予防方法について、できるだけわかりやすく、そして専門的な視点も交えながらご紹介していきます。お子さんの健やかな成長のために、ぜひ最後までお読みください。
顎関節症の主な症状と子どもに特有のサイン
顎関節症の症状は、大人と子どもで共通する点もありますが、子ども特有のサインも見逃せません。特に小さなお子さんの場合、自分で症状をうまく説明できないこともあるため、周囲の大人が変化に気づくことが非常に重要です。
顎関節症の代表的な症状には、「顎を動かすとカクカク音がする(関節雑音)」「口が開けにくい」「顎を動かすと痛む」といったものがあります。これらは大人でもよく見られる症状であり、基本的なサインといえます。
一方で、子どもや高校生では、「朝起きたときに顎がだるい」「無意識に口を押さえる仕草が多い」「固いものを嫌がる」「口を大きく開けるのを嫌がる」といった、やや間接的なサインが現れることがあります。また、口の開閉に伴って「ガクッ」という音がするのも注意すべき兆候です。
さらに注目したいのは、「集中しているときに歯を食いしばっている」「夜間の歯ぎしりがある」「片側だけで噛む癖がある」といった行動です。これらは顎関節への負担が継続的にかかっている可能性を示しており、将来的に顎関節症につながるリスクがあります。
小児の場合、顎の成長はまだ完全ではなく、関節や周囲の筋肉も発達途中です。そのため、大人よりも症状が急激に進行することは少ないものの、逆に軽度のうちに気づくことが難しく、放置してしまうと顎の成長や噛み合わせのバランスに影響を与えることもあります。
たとえば、顎関節症が長く続くと、咀嚼の偏りによって顔の左右差が出ることや、噛み合わせに不調和が生じるケースも見られます。成長期の子どもにとっては、こうした変化が将来的な歯並びや発音、食生活の質にも関係してくるため、早期の気づきが非常に大切です。
お子さんが顎を気にしている様子があったり、食事中に違和感を訴えたりした場合には、早めに小児歯科や専門医を受診することで、安心につながります。気になる症状があるときは、まずは日常生活の中で観察を続け、記録を残しておくのも効果的です。
子どもや高校生に多い顎関節症の原因とは
子どもや高校生に顎関節症が見られる背景には、いくつかの特徴的な原因があります。結論から言えば、「生活習慣の変化」「精神的ストレス」「噛み合わせや姿勢の問題」が主な要因です。これらは単独で影響するというよりも、複数の要素が複雑に関係しあって顎関節に負担をかけているケースが多く見られます。
まず、現代の子どもたちに増えているのが「日常の癖」による顎関節への負荷です。たとえば、頬杖をつく、うつ伏せ寝をする、机に顔を近づけて長時間スマートフォンやタブレットを操作する、などの姿勢は、顎の筋肉に一方的な負担をかけてしまいます。これが続くことで顎の動きにゆがみが生じ、やがて関節にも影響を与えていきます。
また、歯ぎしりや食いしばりといった「無意識の癖」も大きな要因です。これらは夜間の睡眠中だけでなく、日中の緊張時や集中時にも見られることがあり、子どもがストレスを感じているサインでもあります。思春期に入ると精神的ストレスを感じやすくなるため、食いしばりの頻度が高まる傾向があります。
さらに「噛み合わせの問題」も重要な原因のひとつです。乳歯から永久歯への生え替わりの時期は、噛み合わせが一時的に不安定になることがあります。また、顎の成長が左右対称でない場合や、舌の位置が適切でない場合も、噛むときの力のバランスが崩れ、結果として顎関節に偏った負担がかかります。
現代の食生活も、顎関節症の背景にあるといわれています。柔らかい食事が中心になることで咀嚼回数が減り、顎の筋肉や関節が十分に発達しない状態で成長することがあります。こうしたケースでは、顎が疲れやすくなったり、咀嚼にかかる力が不均等になったりすることが起こります。
加えて、矯正治療中の一時的なバランスの変化も関節に影響を与えることがあります。もちろん、矯正自体が悪いわけではありませんが、途中で不調を訴えるような場合は、顎関節への配慮も含めた診察が必要です。
このように、子どもや高校生の顎関節症の原因はひとつに限られず、日常の中にあるちょっとした習慣や身体の使い方の癖から始まることが多いのです。保護者の方がそうしたリスク要因に気づき、早めに対策をとることが、顎関節症の予防にもつながります。
生活習慣や癖が与える影響について
顎関節症の発症や悪化には、生活習慣や日常の癖が深く関係しています。とくに子どもや高校生は、日々の習慣が無意識のうちに定着しやすく、まだ成長途中の顎関節や筋肉に大きな影響を及ぼす可能性があります。結論から言えば、「些細な癖でも長期的に見ると、顎関節に大きな負担を与える」ということです。
代表的な例として「頬杖をつく」「うつ伏せ寝」「長時間のスマホ・タブレット操作」などが挙げられます。これらは一見、何気ない日常の動作ですが、頭部の重みを片側の顎で支えることになり、顎関節の片側だけに負担がかかります。このような片寄った力のかかり方が続くと、関節や筋肉のバランスが崩れ、やがて顎の痛みや開口障害といった症状として現れてきます。
また、「口呼吸」も見落とされがちな要因のひとつです。口を常に開けている状態では、下顎が前方や下方にずれやすく、顎関節や周囲の筋肉に慢性的な緊張を与えることになります。口呼吸の背景には鼻づまりやアレルギー性鼻炎がある場合もあり、耳鼻科との連携が必要になることもあります。
「歯ぎしり」や「食いしばり」などの無意識の癖も、非常に強い力が顎に加わる原因となります。特に子どもはストレスを言葉でうまく表現できないことも多く、その代わりに身体的な反応として顎に力を入れる行動が現れる場合があります。就寝中の歯ぎしりは、保護者が音で気づくこともありますが、昼間の食いしばりは見過ごされがちです。勉強中やゲームに集中している時に、無意識に奥歯をかみしめているようであれば注意が必要です。
さらに、「片側だけで物を噛む」習慣も顎関節に影響を与えます。虫歯や乳歯の抜けた後などで噛みづらい側を避けて片側ばかり使うと、噛む力のバランスが崩れ、片方の筋肉が過度に発達したり、反対側が使われずに弱くなったりします。このようなアンバランスは、顎関節の動きにも偏りを生じさせるのです。
以上のように、生活習慣や癖は、子どもの発育過程において見逃してはならない要因です。悪習慣が積み重なると、成長に伴う顎の発達にも影響を及ぼすため、日常生活の見直しがとても大切です。保護者の方は、お子さんの何気ない行動を注意深く観察し、気になる癖があれば早めに小児歯科に相談することをおすすめします。
顎関節症の診断方法と小児歯科でのアプローチ
顎関節症が疑われる場合、早期に正確な診断を行うことが、その後の治療や対処の方向性を決めるうえで非常に重要です。特に子どもや高校生に対しては、成長期特有の要素を踏まえた慎重な診察が求められます。結論から言えば、小児歯科では「身体の成長や発達段階を考慮しながら、負担の少ない方法で顎の状態を確認する」ことを大切にしています。
まず、診断の基本となるのが問診と視診です。お子さん本人や保護者の方から、症状の内容や現れた時期、痛みや違和感の程度、生活習慣などについて丁寧に聞き取りを行います。これによって、どのような動作で顎に負担がかかっているか、またストレスや癖との関連も見えてくることがあります。
視診では、口の開閉の様子、開けたときの顎の動き、左右差の有無、関節部から音がするかどうか、咀嚼筋に緊張や痛みがあるかなどを確認します。とくに口の開き方に注目し、「まっすぐ開いていない」「引っかかる感じがある」といった点が見られる場合は、顎関節に何らかの異常がある可能性が高まります。
必要に応じて、触診で顎関節や筋肉の状態を直接確認します。触ると痛みがあるか、左右の筋肉の発達に差があるかなどをチェックすることで、症状の根本的な原因に迫ることができます。また、顎関節の雑音(カクッ、シャリシャリといった音)が聞こえる場合には、その種類やタイミングから状態の進行度を推測することもあります。
さらに、噛み合わせや歯の接触状態の確認も大切な診断ポイントです。特に成長期は歯並びが変化しやすく、一時的な噛み合わせの乱れが顎関節に影響を与えることもあるため、口腔内の観察も丁寧に行います。矯正治療中のお子さんの場合は、その影響も含めて総合的に判断します。
小児歯科では、子どもが安心して診察を受けられるよう、痛みを感じにくい診察方法や、遊びを交えたコミュニケーションを工夫しながら、顎関節症の評価を行います。お子さんが緊張していると正確な情報が得られにくくなるため、リラックスした状態で診察できる環境づくりも重要です。
画像診断が必要と判断された場合は、成長段階に配慮したレントゲン撮影や顎の動きの記録などを行うこともあります。ただし、小児の場合は放射線被ばくのリスクを最小限に抑えるよう、必要性を慎重に検討してから実施します。
このように、小児歯科では成長のプロセスを理解したうえで、子ども一人ひとりに合わせた診断アプローチが求められます。早期発見・早期対応によって、顎関節症が慢性化したり、将来的な噛み合わせの問題につながるのを防ぐことができるのです。
顎関節症に対する治療や対処方法の選択肢
顎関節症と診断された場合、その症状や原因、そしてお子さんの年齢や成長段階に応じて、さまざまな治療や対処方法が検討されます。結論からお伝えすると、「子どもの顎関節症では、まずは負担を軽減する保存的な治療から始め、必要に応じて段階的に対応を広げていく」という方針が基本となります。
まず初期の対応として大切なのが、「生活習慣の見直し」と「顎関節への負担を減らす工夫」です。たとえば、頬杖をつかないようにする、長時間のスマホ使用を避ける、硬い食べ物を控える、うつ伏せ寝をやめる、といった日常生活の改善は、軽度の顎関節症であれば症状の緩和につながるケースが多くあります。
また、食事の内容や咀嚼の仕方も見直しのポイントです。片側だけで噛む癖がある場合は、意識的に両側で噛むよう促し、柔らかすぎる食事ばかりが続かないようにすることも重要です。咀嚼筋をバランスよく使うことで、顎関節への過度な負担を防ぐことができます。
症状が進行していたり、顎の開閉に強い違和感がある場合には、マウスピース(スプリント)を用いた治療が検討されます。これは、主に就寝中に装着することで、歯ぎしりや食いしばりによる関節への負担を軽減し、顎の筋肉の緊張を和らげる目的があります。ただし、子どもの場合は顎の成長を妨げないよう、装着のタイミングや期間には細やかな配慮が必要です。
そのほか、ストレッチや筋肉のリラクゼーションを促す「顎の体操」や、口を開ける練習などの運動療法もあります。専門の指導のもとで行うことで、顎関節の可動域を広げたり、動かし方のクセを修正することが可能です。とくに口の開け閉めに制限がある場合や、顎に違和感を感じる場面が多い場合には有効な方法です。
また、ストレスが症状に影響していると考えられる場合には、心理的なサポートも重要となります。思春期のお子さんでは、学校生活や友人関係、受験などによるプレッシャーが、無意識のうちに顎の緊張や食いしばりにつながっているケースもあるため、保護者の方が心の状態にも気を配ることが求められます。
症状が慢性的に続いている場合や、明らかに関節の構造に問題があると考えられる場合には、専門医との連携のもと、より詳しい検査や診断が行われることもあります。ただし、外科的な治療はあくまで選択肢のひとつであり、小児では極めて慎重に検討されるべきものです。
このように、顎関節症の治療や対処法にはさまざまな方法があり、症状の程度やお子さんの成長のタイミングに合わせて柔軟に対応していくことが大切です。まずは無理のない範囲でできるケアから始め、必要であれば専門的なサポートを受けることで、症状の悪化を防ぎ、安心して日常生活を送ることができるようになります。
自宅でできる予防とケアのポイント
顎関節症は、日常生活の中でのちょっとした工夫や心がけによって、予防や軽減が期待できる症状です。特に成長期にある子どもや高校生では、顎の関節や筋肉がまだ発達の途中にあるため、早期のケアが大きな効果をもたらすことがあります。ここでは、自宅でできる予防とケアのポイントについて、わかりやすくご紹介します。
まず重要なのは、「顎に無理な力をかけない生活習慣」を身につけることです。例えば、頬杖をつく、うつ伏せ寝、片側だけで物を噛むといった癖は、顎関節に不均等な負担をかけてしまいます。これらの癖を避けるよう、日常生活の中で保護者が声かけをしたり、正しい姿勢を一緒に意識していくことが大切です。
次に、「適切な食生活」も予防に大きく関係しています。柔らかい物ばかりを好んで食べると、顎の筋肉が十分に使われず、関節も発達しにくくなります。日頃から、適度に噛み応えのある食材を取り入れ、左右の歯でバランスよく噛む習慣を育てることで、顎の筋肉がまんべんなく使われ、関節の動きも安定しやすくなります。
「ストレスの管理」も見逃せないポイントです。特に中高生は、学業や人間関係などから精神的な負荷を感じやすく、それが歯ぎしりや食いしばりといった顎関節に悪影響を与える行動につながることがあります。ストレスを溜め込みすぎないよう、リラックスできる時間を意識的に確保したり、睡眠環境を整えたりすることも、顎の健康を守る助けになります。
また、簡単な「顎のストレッチ」や「マッサージ」もおすすめのケア方法です。例えば、指先でこめかみや頬の筋肉を軽く円を描くようにマッサージすることで、咀嚼筋の緊張をやわらげることができます。また、無理のない範囲で口をゆっくりと開け閉めする練習も、関節の可動域を保つのに役立ちます。ただし、痛みがある場合は無理をせず、専門の指導を受けるようにしましょう。
日中の「噛みしめチェック」も予防には効果的です。たとえば、「歯と歯は離れているのが通常の状態」と伝え、リラックスしている時に上の歯と下の歯が常に触れていないかどうかを意識させることで、食いしばりの予防につながります。小さなお子さんの場合は、ゲーム感覚で楽しみながらチェックするのもよい方法です。
顎関節症の予防やケアは、特別な道具や難しい知識がなくても始めることができます。大切なのは、お子さんの様子を日常の中でよく観察し、「ちょっと変だな」「痛そうだな」と感じたときに、すぐに対応できるようにしておくことです。ご家庭での小さな気づきが、お子さんの将来の健康な顎の発育につながります。
終わりに
顎関節症は、大人だけでなく子どもや高校生といった成長期の世代にも見られる身近なトラブルです。小児歯科の現場でも、顎の違和感や痛みを訴えるお子さんが年々増えてきており、早期発見・早期対応の重要性がより高まっています。
本記事では、顎関節症の基本的な症状や、子ども特有のサイン、生活習慣の影響、診断と治療の方法、そして家庭でできるケアのポイントまでを幅広くご紹介してきました。どれも日常生活の中にある“ちょっとした変化”に気づき、優しくサポートしていくことが大切な鍵になります。
成長期の子どもたちは、心身ともに大きく変化する時期を迎えています。顎関節もまた、歯の生え替わりや骨の発達など、ダイナミックに変化する構造のひとつです。その過程で無理がかかれば、痛みや機能の異常として現れてくることもありますが、逆にこの時期だからこそ、適切なケアで健康的な成長へと導いてあげることも可能です。
保護者の方にとっては、「顎の不調=専門的で難しい問題」と感じられるかもしれませんが、まずはお子さんの表情や食事中の様子、姿勢や癖を注意深く見守ることが第一歩です。そして、気になることがあれば、小児歯科へお気軽にご相談ください。痛みの軽減だけでなく、お子さんの将来の噛み合わせや口腔機能の健やかな発達につながる支援を行っていくことができます。
これからも当院では、お子さん一人ひとりの成長に寄り添いながら、安心して通っていただける環境を整えてまいります。些細なことでも、お気軽にお声がけください。
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